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「整っている」のに、進まない
これは、UIデザインを始めて3年目の話です。
若手なりにロジックも考え、見た目も整え、「ちゃんと作った」と言える画面をレビューに出しました。色もフォントも揃っている。コンポーネントも整理されている。自分としては、悪くない出来だと思っていました。
でも、返ってきた言葉はこうでした。
「で、これは今やるべきことなんだっけ?」
否定ではない。けれど、何かが噛み合っていない。
僕は、その違和感を“完成度の問題”だと捉えました。
世界観をもっと強めればいい。トンマナをより整えれば説得力が増すはずだ、と。
けれど、何度直しても手応えは戻らなかった。
後からわかったのは、揃っていなかったのは“見た目”ではなく、“前提”だったということです。
この記事は、UIデザインに悩んでいる人や、デザインの本質を言語化したい人に向けて書いています。
僕自身の失敗を起点に、少し抽象化してみたいと思います。
トンマナとは何か
トンマナ(トーン&マナー)は、表層の統一です。
色、フォント、写真の雰囲気、余白の取り方、コピーの語尾。
それらが揃うことで、視覚的整合性が生まれます。
トンマナを決めるプロセス自体は、極めてまっとうです。ムードボードをつくり、競合を見て、ブランドガイドラインと照らし合わせる。
そして多くの場合、若手デザイナーはここに全力を注ぎます。
なぜなら、成果が“目に見える”からです。
ただ、トンマナは「どう見せるか」の設計です。
「なぜそれをやるのか」には、直接答えてくれません。
コンテキストとは何か
一般的にコンテキストとは、「文脈」や「背景」を指します。
ビジネスの文脈で言えば、市場環境、競合状況、事業フェーズ、KPIなどがそれにあたります。
デザインの現場で語られるコンテキストも、基本的には同じです。
誰の課題なのか。なぜ今やるのか。優先順位は何か。制約は何か。
けれど、僕が本気で意識するようになったのは、ある失敗からでした。
あるプロジェクトで、僕は「使いやすさ」を徹底的に追求しました。導線を減らし、選択肢を整理し、UIもすっきりさせた。
ところがリリース直前、事業側からこう言われました。
「今回は短期的に売上を上げる施策だから、多少煩雑でもオプションは増やしたい」
その瞬間、前提のズレに気づきました。
僕は“長期的な体験改善”の文脈で設計していた。
チームは“短期的な売上最大化”の文脈で動いていた。
トンマナは揃っていました。
でも、時間軸と目的のコンテキストが揃っていなかった。
それ以来、僕はこう定義しています。
コンテキストとは、そのデザインの意思決定を支える「前提条件」である。
なぜやるのか。
誰のどんな状態を変えたいのか。
そして、今回は何をあえてやらないのか。
そこまで共有されて初めて、デザインは“整う”のだと思います。
コンテキストが揃っているデザインの特徴
1. 説明できる
コンテキストが揃っているデザインは、語れます。
「なぜこのボタンは目立たせていないのか?」
「なぜこの機能は今回は入れていないのか?」
その問いに、「なんとなく」ではなく、「今回の目的が◯◯だから」と答えられる。
トンマナは見ればわかる。
でも、意味は説明しなければ伝わりません。
説明できるデザインは、強い。
2. 地味でも強い
コンテキスト起点のデザインは、派手ではないことが多いです。
以前、BtoBの管理画面を設計したとき、僕は「もう少し遊びを入れたい」と思っていました。けれど、ユーザーは毎日業務で使う担当者。求められていたのは驚きではなく、安定でした。
結果として、とてもシンプルなUIになりました。
でも現場からは「迷わなくなった」と言われた。
地味でも強い。
それは、意味から組み立てられているからです。
3. 一貫性がある
プロジェクトが進むと、前提は揺れます。
スケジュールが縮まり、関係者が増え、要望も膨らむ。
そのとき、トンマナだけでは守れないものがあります。
判断の軸です。
コンテキストが共有されているチームは、迷ったときに立ち返れます。
「今回の優先順位は何だったか」
「誰の体験を守るんだっけ」
その共通認識が、一貫性をつくります。
再現性のあるアプローチ
では、どうすればコンテキストを揃えられるのか。
僕が実践しているのは、派手ではない3つのことです。
1. 「なぜ」を段階で分解する
「UIを改善したい」という要望はよくあります。
ここで止まると、見た目の話に流れます。
なので、僕は順番に分解します。
・なぜ改善したいのか
・その背景にある数字や事象は何か
・それは誰にとっての課題か
・今回はどの指標を動かすのか
4問目あたりで、前提の曖昧さが露わになります。
そこが、本当に揃えるべきポイントです。
2. 「やらないこと」を先に決める
コンテキストは、選択の連続です。
だから僕は、「やること」より先に「やらないこと」を書きます。
・ブランド刷新はしない
・新規ユーザー向け導線は触らない
・トーンは現行踏襲
これを最初に合意するだけで、議論の迷子が減ります。
捨てたものが明確になると、輪郭が浮き上がります。
3. 1枚の前提メモを書く
デザインに入る前に、A4一枚で前提を書き出します。
・このプロジェクトの目的
・成功の定義
・想定ユーザーの状況
・今回優先する価値
共有すると、必ず修正が入ります。
その修正プロセスこそが、コンテキストを揃える時間です。
完成度の高いUIよりも、この1枚の精度の方が、後から効いてきます。
結論:最初に揃えるのは“意味”
トンマナは重要です。
ただし、それは最後に整うものだと思っています。
最初に揃えるべきなのは、“意味”です。
なぜやるのか。
誰のためか。
何を優先し、何を今回は捨てるのか。
最後に
今回言語化してみて少し思うことがあります。
その施策は、本当に必要なのか。
その機能は、本当に与えるべきものなのか。
合理的に考えることは大切です。
KPIも、数字も、ロジックも必要です。
けれど、合理の先にある「そもそも」の問いに踏み込まなければ、デザインはただの最適化になってしまう。
私たちは、何を良くしようとしているのか。
それは、本当に誰かの意味になるのか。
トンマナを整える前に。
コンテキストを揃える前に。
一度だけ立ち止まって、そこまで考えてみたいと思いました。