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もうひとつのノンバーバルデザインとは
前編にて、私たちの身近にある“ノンバーバルデザイン”についてお話しましたが、広告・印刷業から見た”もうひとつのノンバーバルデザイン”についてもお話します。
それは古くからポスターや広告をデザインしていたデザイナーの考えた手法であり、デザイナーがポスターや広告をデザインする作業工程の中で、もっとも頭を使って考える部分でもあります。
では“もう一つのノンバーバルデザイン”とは何を意味するものなのでしょうか。この疑問を少しづつ紐解きつつ、その重要性に迫っていきたいです。
広告業界におけるノンバーバルデザインの意味合いとは?
■Kelopticの広告

2014年作成
フランスに存在する「Keloptic」という眼鏡屋は、ノンバーバルデザイン手法を使った広告を作成し注目を浴びました。
右のコピーには「Turning impressionism into hyperrealism.」、翻訳すると【印象主義から超写実主義に変わる】と書いてあり、「印象派のやわらかいタッチの絵画がリアリティのある明確な描写(写実主義)に変わってしまうほど、kelopticの眼鏡をかけるとくっきり鮮やかに物を見ることができるようになる」という宣伝をデザインと短いコピーで表現しています。
眼鏡をかけて絵画を見ればより絵画がまるで現実に存在するモノのように美しく見えるととらえることができます。
■chupachupsの広告

2006年作成
誰もが必ず小さい頃に味わったことのある「chupachups」は、過去にシュガーレスの飴を販売したことがあります。
その時に使われたのがこの「砂糖が入っていないので、アリが飴に気付かず避けてしまう」広告です。 日本ではあまり目にすることはありませんでしたが、欧米ではこの商品を人々に印象付ける事に成功しています。
このように、広告業の考える“ノンバーバルデザイン”とは一瞬で相手にメッセージを伝えるために、できるだけ説明を減らしてイラストや写真、短いキャッチコピーで商品やサービスを表現したものであり、意図した具体的なメッセージをいかにデザインに落とし込めるか、が広告デザインの見せどころであり、アート作品やプロダクトデザインとは根本的に異なる点が見て取れます。
古くから伝わるノンバーバルデザイン
■フォルクスワーゲンの広告

1956年作成
世界初ともいわれる「水に浮く自動車」として一時世界一有名な車になりました。
上記の写真はその真偽を確かめるべく、TV局のレポーターが乗車しながら着水させたものを真正面から撮った写真であり、 この写真が広告にされると多くのお客がこのフォルクスワーゲンを求め車屋に殺到しました。
ノンバーバルデザインの考え方とは私たちが産まれるはるか昔から存在しており、美しい絵画やポスターなどに存分に使用されました。 まだこの表現に言葉が付いていなかった時代、確実に今現存する手法に近づきつつあったのです。
■民衆を導く女神

1830年作成
さらに歴史を遡り、ウジェーヌ・ドラクロワによって書かれたこの世界的に有名な「民衆を導く女神」は私たちに声をかけることなく、そのキャンパスに描かれたストーリーを伝えようとします。
マスケット銃を左手に持ち、フランス国旗を目印に右手で掲げ民衆を導く果敢な女性は、祖国フランスを表して描かれた、絵画としてのスタイル、フランス7月革命というテーマから、世界的な絵画における代表作と言えるでしょう。
このような民族意識の高揚を伝えようと文芸・美術・音楽・演劇などで伝えようとする運動を「ロマン主義」といい、 デザインを通してメッセージを伝えようとする方法は、現代のノンバーバルデザインに通じるものがあります。 形は違えど、表現方法としてはこの時代から基礎が出来つつありました。
モノをデザインして「美しい」「奇抜だ」「かっこいい」と思わせることは大切ですが、その奥にある「メッセージを伝える」事こそ、デザインすることにとって必要な事なのです。何気なく机の上に置いてある、新聞に載ったイラストや広告には実は重要なメッセージが仕組まれています。
知らず知らずの内に私たちは、デザインの奥に潜む本当の意味を無意識に受け取っているのです。