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    テスラーの法則とは

    テスラーの法則とは「どんなシステムにもそれ以上減らせない複雑さがある」という法則で、複雑性保存の法則とも表現されます。
    ラリー・テスラーという、 アメリカ合衆国のコンピュータ科学者が提唱しました。
    テスラーはアップル、ゼロックス、アマゾン、ヤフーなどで活躍し、初期のグラフィカル・インターフェースで重要な役割を果たした共同開発者です。



    ポイントは3つです。
    ・どんなプロセスも、その核となる部分にはデザインの工夫も持ってしても取り除くことのできない複雑性を抱えている。この複雑性による負荷を負うのは、システムかユーザーである
    ・この固有の複雑性をデザインと開発の過程でどうにかしながら、できる限りユーザーの負荷を減らそう
    ・シンプルにしすぎてインターフェースが抽象的になりすぎていないかをきにしよう

    脳科学において、脳は簡素化されると、それを使い、より複雑なものを解こうとする思考が働くと言われています。
    シンプルすぎる場合や単調すぎてしまうと飽きてきて、脳が思考を停止したり、大切な情報も読み飛ばしたり、見逃したりするのです。
    たとえば、常に同じことを繰り返す単調作業や毎回同じルーティンワークを続けていると飽きがきて、モチベーションが低下するのではないでしょうか。
    そのうえ、毎日、毎回繰り返してきたことなのに、思わぬミスをしてしまうのです。
    それは、複雑さがなかったために、脳が注意力を払わなくなり、ミスを引き起こしたからにほかなりません。

    話はそれましたが、アプリケーションそのものとユーザーインターフェースそれぞれの複雑性を減らすことは重要です。
    しかし、どのようなアプリケーションやプロセスにも、取り除くことができない固有の複雑性があるということです。
    そのため、UXデザインを最適化するには、シンプルすぎず、楽しめるくらいの複雑さはあえて残すと良いのです。

    複雑性の中に工夫されたユーザービリティ

    テスラーの法則を説明するための例として、Eメールのシステムを考えてみましょう。
    メールには差出人と宛先の2つの情報が必ず必要です。どちらがかけてもEメールを送信することができないため、これらは必要不可欠な複雑性です。
    この複雑性を減らすために、最近のメーラーアプリでは2つの工夫がなされています。

    ・差出人を事前に入力しておくこと
    ・宛先の入力開始時に、過去のメールやあなたの連絡帳から宛先の候補を予測すること

    上記の工夫は、本来ユーザーが負担しなければならなかった苦痛をアプリケーションが引き受けユーザビリティを向上させています。


    小売業界でも、ユーザーから複雑性を取り除くことに成功した事例がたくさんあります。
    例えば、Amazonが経営する食料品店Amazon Goストアでは会計いらずの買い物体験を提供しています。
    スマートフォンにAmazon Goアプリをインストールしたユーザーは、アプリを使って店にチェックインし、
    必要なものを手に取りながら進んで店を出るだけで、行列に並んだり、商品をスキャンしたり、店内でお金を払う必要もなくなります。
    店を出るとAmazonアカウントに課金されるだけです。



    シンプルさの弊害

    「何事もできるだけ単純なほうが良い」と、よく言われます。
    「シンプルイズベスト」という言葉は、響きは良いです。
    しかし、ことUXにおいてはインターフェースをシンプルに見せようとして、抽象的な表現になってしまうと、ユーザーが意思決定するのに十分な情報が得られなくなってしまいます。

    その最たる例がアイコンです。
    テキストラベルよりも省スペースで視覚的な情報を伝えられるアイコンは、同時に曖昧さを生み出してしまいます。
    今ではユーザー側も多くのサービスを利用していく中でアイコンの持つ意味をなんとなく予測できるようになってきているとは思いますが、
    シンプルさを追求していく上では、バランスを取ることが重要です。


    まとめ

    テスラーの法則は、あらゆるプロダクトやサービスには
    取り除くことができない固有の複雑性があります。
    この複雑性をユーザーに押し付け内容にデザインすることがサービス提供者の役目です。
    ただし、シンプルさを追求しすぎて抽象的になりすぎないように気をつけることが重要です。
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